ほとんどの会員さんはご存知だと思いますが、私は父の在宅介護をしています。
父は15年前に脳梗塞になり、以降半身不随の状態が続いています。
実際に障害者の介護をしてきた人間から見て、障害を持つという事は、つくづく不憫な事だと思います。
なぜなら、日常生活のほぼ全てを、人に介助してもらわなければ、生きていく事すらできないからです。
朝、自分でベッドから起き上がる事もできませんし、顔を洗う事もできません。
食事も自分では作れないし、身支度もできません。
出かけるのも、買い物をするのも人に連れていってもらわなければならない。
そして、おそらく生きていく上で、一番世話になりたくない排泄のケアも人にしてもらわなければなりません。
私自身が15年以上にわたって、介護をしてきて思うのは、誰にも迷惑をかけずに、健康で一生を送りたいという事です。
やはり、人の世話になり続けるというのは、気持ち的につらいですからね。
そのためには、人一倍、健康に気を付けて、生きていかなければならないでしょう。
しかしながら、実際に介護をしていると、夜も排泄の世話などで熟睡できませんし、起き上がらせたり、移動したりで、腰にも肩にも毎日、相当な負担が掛かります。
また基本的にデイサービスなどで預かってもらう時間以外は、こちらも拘束されますから、自分の時間が大幅に削減されますし、気晴らしに遠出をする訳にもいきません。
肉体的にも精神的にも、決して健康的な生活を送っているとはいえないでしょう。
在宅で介護をされている方や、介護を職業にされている方が、身心ともに健康を害する事が多いのも頷けます。
にも関わらず、私は幸いにも、現在、どこも悪いところはありませんし、健康だと言えると思います。
その理由の一つは、やはり長年続けてきた太極拳や八卦掌の練習にあるのではないかと思っています。
では、私が毎日どれだけの練習をしているかと言えば、若い頃のように、一日に何時間も練習できるような環境にはありません。
介護や家事の合間にちょこちょことやっているだけです。おそらく正味一時間もないでしょう。
練習時間を作るというよりは、日常生活の合間に練習している感じです。
それだけでも、健康でいられますし、ここ数年で若い頃にはできなかった動きや技ができるようになってきました。
その理由は、継続してやってきたというのもありますし、もう一つは内家拳に必要な身体を動かす仕組みが一定の基準に達したという事もあると思います。
この一定の基準に達するというのは、言葉で説明するのは非常に難しいのですが、やはり一定の基準というものがあります。
年数だけを重ねても、この基準に達していなければ、そこから発展させていくという事は難しいでしょうし、逆に一定の基準にさえ達していれば、そこから自分自身で発展させていく事も可能だと思います。
ただし、そのためには、その基準に達している先生に学ばなければなりませんし、やはりある程度の年数は必要だと思います。
私がつくづく思っているのは、太極拳や八卦掌を始めるなら、できるだけ早い年齢のほうが良いという事です。
日本でも中国でも太極拳というと、ある程度の年齢になってから始める方が多いようです。
つまり一般的なスポーツが無理になってきて、体力が衰えてきたから、太極拳を始めるという方が多いように思います。
しかし実際には、太極拳に必要な身体を動かす仕組みを作るには何年もかかります。(詳しくは「太極拳の内功について」をお読みください)
この仕組みを作ってこそ、身体も強くなるし、健康にもなる。
そのためには、なるべく早く練習を始めたほうが良いという事です。
これはあくまで私自身の体験ですが、やはり体を動かす仕組みが出来てきた事で、一般の方とは、少し違った動きができるようになってきました。
それは、別に手が四本生えてきたとか、目が三つになったとかいう訳ではありません。
ほんの少しの動きの違い、ほんのわずか運動の質が変わったという事です。
見る人が見れば分かりますし、外見的には、ほとんどの方には分からないかもしれません。
ただ、そのほんの少しの違いが、内面的には非常に大きく。質的にはまったく違うものとなってきます。(この場合の内面とは、心理的なものではなく、内功としてです。)
こうなってくると、練習が本当に楽しくなります!
練習をする度に新たな発見や気付きがあり、そこから更に発想が生まれてきます。
武術的にも、この段階から様々な戦術や戦略が、発想として生まれます。
そして、その発想を基に自分の身体を使って、「こういう動きはできないだろうか」「こういった技は使えないだろうか」と具現化する楽しみが出てきます。
この発想を具現化していくという作業は、脳的な運動とも言えますし、できなかった事ができるようになる事で、自信や向上心が生まれ、心理的にも好影響が出てきます。
また運動の質が変わる事で、練習の質も変わって行きます。上述したように、短時間の練習でも成果が上がるようになってきます。
体力自体は、年齢と共に低下していくかもしれませんが、運動の質を変えていく事は、年齢を重ねても可能だと思います。
そのためには、やはり早めに練習を始めて、地道に基礎錬功法や基本功を積み重ねて、一定の基準に達するよう努力する事が大切ですね。
当会の会員の方々が、早く一定の基準に達するよう、また生涯を健康で過ごせてもらえるよう、私自身も努力していきたいと思います。
2018年4月記す